ペネデスが生んだ、”極上の泡”を求めて
サン・サドゥルニ・ダノイア-
CAVA(カバ)の都へ
バルセロナから車でわずか40分、バルセロナ県アルト・ペネデスに位置するサン・サドゥルニ・ダノイアは、スペイン産のスパークリングワイン「CAVA(カバ)」の発祥の地として知られています。最近では、ペネデスの高品質スパークリングワインの代名詞として、「Corpinnat(コルピナット)」という団体の存在も大きくなってきました。
バルセロナのサンツ駅やカタルーニャ駅からは、ロダリアス・ダ・カタルーニャ鉄道で直通、約1時間でアクセスできる便利な場所です。町の中心にあるワイナリーは、駅から徒歩約5分の距離にあり、さらに大型タクシーの予約も可能なので、運転を気にせずワインテイスティングやレストランでの食事を存分に楽しむことができます。
サン・サドゥルニ・ダノイア駅
カタルーニャ地方を象徴するモンセラット(Montserrat)は、サン・サドゥルニ・ダノイアの北西に位置し、そびえる奇岩群と修道院で有名な神聖な山です。カタルーニャ語で「のこぎり山」を意味し、その独特な形状は、ガウディのサグラダ・ファミリアにも影響を与えたといわれています。
カタルーニャの聖地といわれるモンセラット(写真提供Gramona)
モンセラットはピレネー山脈からの冷たい風を遮り、サン・サドゥルニ・ダノイアでのブドウ栽培に理想的な条件を生み出しています。干ばつや温暖化で、ブドウの収穫が早まる昨今、高品質ワインの生産者たちは、標高の高い畑に、この土地に古くから根ざした土着のブドウ品種(チャレッロ、マカベオ、パレリャーダなど)を植栽することで、気候変動に対応しています。
新たな潮流、CAVAとコルピナット
D.O. CAVAは、地域を示す原産地呼称ではなく、生産方法を基準とする制度で、シャンパーニュと同様に瓶内二次発酵を行う伝統的製法によって造られるスペイン産スパークリングワインを管轄しています。その生産地域は非常に広範囲で、7つの自治州にまたがっています。中でもカタルーニャ州は、ペネデス地方のサン・サドゥルニ・ダノイアを中心に、全生産量の約90%を占める主要な産地として知られています。しかし、大手生産者が低価格帯のCAVAを大量生産した結果、“世界三大スパークリングワイン”のひとつに数えられるほどの流通量と知名度を得る一方で、「安価」というイメージも定着してしまいました。こうした中、ペネデスのテロワールを尊重した高品質CAVAの代表的なワイナリー数社が2017年にD.O. CAVAを離脱し、新たにCorpinnat(コルピナット)を設立しました。
カタルーニャ語で「地下セラー」を意味する”カバ(CAVA)”
Corpinnat(コルピナット)は、カタルーニャ語で「心」を意味する「cor」と、ペネデス(Penedès)の地名の語源である「Pinnae」に由来する「Pinnat」を組み合わせて名付けられました。2017年の設立以来、加盟ワイナリーは年々増加し、現在では13社が所属しています。(2024年12月) 生産エリアはD.O.ペネデス内に限定され、厳格な規定に基づいてプレミアムスパークリングワインを生産しています。その規定には、100%有機栽培のぶどうを手摘みで収穫すること、90%以上を土着品種とすること、自社醸造、最低18か月間の自社セラーでの瓶内熟成、さらに自社瓶詰めなどが含まれます。
こうした徹底したこだわりによって生まれるコルピナットのスパークリングワインは、一流レストランやソムリエ、ワイン愛好家たちからも高く評価されています。
1881年創業、2021年に140周年を迎えたグラモナ。スペインのプレミアムスパークリングワインの象徴的存在であり、Corpinnat(コルピナット)創設メンバーの一社。(画像提供:Gramona)
とはいえ、CAVAが全てカジュアルでリーズナブルというわけではなく、高品質な造り手が存在することもお伝えする必要があります。長期熟成の高品質CAVAを手掛ける造り手も少なくありません。現在、プロフェッショナルの間では、コルピナットの知名度と評判は上昇していますが、一般的にはCAVAの方が広く認知されています。それぞれの生産者が独自の哲学に基づき、卓越したワイン造りに挑戦しています。
2024年9月2日、ジュヴェ・カンプスとエル・ブリ財団の来日プレゼンテーションが東京で開催された。
ガストロノミックなレストランに愛されるジュヴェ・カンプスのCAVA。(画像提供:スペインワインと食協会)
2020年にはD.O.CAVAの熟成分類が大幅に変更され、プレミアムCAVAをより際立たせる取り組みが行われています。最低9ヶ月の瓶内熟成を経たワインは「カバ・デ・グアルダ」としてラベル付けされ、18ヶ月以上熟成した「カバ・デ・グアルダ・スペリオール」という上位カテゴリーも新設されています。
このカテゴリーには、少なくとも18か月間澱と共に熟成されたレゼルバ(Reserva)や、最低30か月熟成されたグラン・レゼルバ(Gran Reserva)が含まれます。
また、単一畑で生産されたCAVAを示す「Cava de Paraje Calificado(カバ・デ・パラヘ・カリフィカド)」の指定も、この新しいカテゴリーに含まれています。これらはD.O.CAVA内の特別な単一畑から収穫され、最低36か月間熟成されたCAVAを指します。
あなたの心に響くスパーリングワインを求めて
Sparkling Wine
サン・サドゥルニ・ダノイアは、CAVAの発展とともに栄えた町で、伝統的で豊かなカタルーニャのワインと食文化が楽しめます。現在、CAVAに加えて、コルピナットやクラシック・ペネデスといった新たなムーブメントも広がりを見せていますが、いずれもペネデスのテロワールを愛し、高品質なスパークリングワインをつくり上げるという深い志から生まれたものです。この流れが、ペネデスにおけるスパークリングワインの新たな飛躍につながると信じています。実際にその地を訪れ、ワインの生まれた場所で造り手の想いやこだわりに触れる体験は、あなたの旅を鮮やかに彩ってくれることでしょう
原田 郁美(はらだ いくみ)
スペインワインと食協会共同代表。山口県出身。大学卒業後、広告代理店でデザイナーとしてのキャリアを積んだ後、スペインに語学留学。バルセロナでの3年間の生活を通じて、スペインワインと食文化に深く魅了され、帰国後は「日本とスペインをつなぐ架け橋」を志して独立。2011年に「スペインワインと食協会」を設立。2012年からはプリオラートでのワイン造り、国際営業マネージャー、スペインワインのプロモーション活動、及び執筆を手掛ける。WSET ® Level 3 (Wine & Spirit Education Trust), Spanish Wine Specialist(ICEX-スペイン貿易投資振興機構認定)