コスタ・ブラバからガロッチャまでメイン写真

カタルーニャ食紀行 vol.4|浜田さんが通う名店——コスタ・ブラバから ガロッチャまで

フーディの浜田岳文さんに聞く、カタルーニャ美食の世界

カタルーニャの食の魅力は、バルセロナ市内だけでは語り尽くせない。フーディの浜田岳文さんが実際に訪れた名店を今回はご紹介いただいた。キーワードは「郊外」と「地元感」。観光客があまり行かない場所にこそ、本当の美食体験が待っている。

アルス・カサルス(Els Casals)——ファームトゥテーブルの完全体

バルセロナから車で1時間ほどの場所にある「アルス・カサルス」は、浜田さんが「もっと知られていい」と力説する一軒だ。
「ここはファームトゥテーブルを本当に体現しているレストランで、豚、鶏、野菜、卵など、食材をほぼ全部自分たちで育てているんです。豚肉は自家製の加工品にも仕立てていて、熟成・加工施設も農場も備えている。農場はレストランの近くのものと、少し離れた場所のものがいくつかあって、食材の大部分を自給しています」
食材が育つ風景を実際に目にし、その土地で食事を味わう体験は、料理への理解を大きく深めてくれる。

「スペイン人の間では有名な店ですが、外国人はまだそんなに行っていないので、もっと知られていいと思う。今でもそれなりに予約が埋まっていますが、予約が取れないお店ではないので実際に体験してみてほしい。めちゃくちゃおすすめの店です」

全てEls Casalsより

リャンサ(Llançà)の2軒——シンプルと革新、両極の共存

フランス国境にほど近いリャンサやカダケスなどは魚介の美味しいレストランが多くあるという。なかでも、小さな港町リャンサには、対照的な魅力を持つ2軒の名店がある。

アルス・ペスカドース(Els Pescadors)
「シェフが徒歩10分足らずの市場で仕入れた食材を使っているお店で、魚介のクオリティが本当に素晴らしい。朝だけでなく夕方にも船が帰ってくるタイミングに合わせて仕入れをするんですよ。一度その水揚げの現場を見せてもらったんですが、船が着いて魚介がどんと卸されて仕分けされていく光景は、めちゃくちゃ面白かった。漁港で水揚げされたものをすぐそこで食べる、この距離感が特別ですよね」

全てEls Pescadorsより

ミラマール(Miramar)
同じ小さな街に、ミシュラン二ツ星とギア・レプソル(スペインを代表するレストランガイド)でトレス・ソレス(3つの太陽)を獲得しているイノベーティブ料理店「ミラマール」もある。 「魚介や海藻、アンポルダ地方(Empordà)の土地の食材を使いながら、分子ガストロノミー的な先端技法を駆使してテロワールを表現している店です。食材そのものの魅力をストレートに味わえるアルス・ペスカドースと、技術の粋を尽くしたミラマールが同じ小さな町にある。この両極端が共存しているのが素晴らしいんですよ」

全てMiramar

カ・レンリック(Ca l’Enric)— 森の料理とシェフの優しさ
ガロッチャ地方の「カ・レンリック」は、秋冬の食材——ジビエ、キノコ、トリュフを軸に展開する「森の料理」が魅力の名店だ(ミシュラン一つ星)。 「この店のシェフはめちゃくちゃ優しくて。ガロッチャを車で走っていたらタイヤがパンクしてしまって、動けなくなっちゃったんですよ。ランチの予約まで40分しかないのにどうしようと思ってお店に電話したら、レッカーの手配もしてくれて、さらに迎えにまで来てくれたんです。結果的にランチも食べられて、本当にありがたかった」

この出来事は、浜田さんにとって料理だけでなく、カタルーニャの人々の温かさを実感する出来事にもなった。
「スペインの人たちは基本的に優しい。特に田舎に行くとそれを強く感じます。フランスやイタリアと比べても、みんなフレンドリーで飾らない。素朴というか、自分と同じ立場でという感覚がある。レストランで嫌な思いをすることがほとんどない。そういうところも、カタルーニャが好きな理由の一つです」

全てCa L’Enric

コンパルティール(Compartir)—仲間とシェアする喜び
カダケスの「コンパルティール」は、エル・ブジ出身のディスフルタール(Disfrutar)の3人のシェフが手がけるもう一つの店。「コンパルティール」とはカタルーニャ語で「シェアする」という意味だ。 「何人かで訪れて料理をシェアしながら食べるスタイルが合う店で、料理はガストロノミー的な技法よりも、地元の食材を使ったシンプルで豊かなもの。分子ガストロノミーの対極ともいえる、みんなでわいわいシェアする幸福感があるお店です。コスタ・ブラバには、こうした個性豊かなレストランが点在しているのも魅力です。 このコスタ・ブラバのエリアは本当に素晴らしいですよ。僕は残念ながら一人で行きましたが(笑)」

全てCompartir

浜田さんは、コスタ・ブラバを訪れるなら、エル・ブジの跡地に誕生したミュージアムとあわせて巡ることを勧める。

またカタルーニャにおいての食事の位置づけを次のように表現している。
「カタルーニャでは、食べることそのものだけでなく、その時間を家族や友人と共有することが文化になっています。日本人には、昼食に何時間もかけるという感覚はなかなか想像しにくいかもしれません。でも、食事を囲んで過ごす時間や空間が、人生の大切な一部になっている。その価値観がとても印象的なんです。」

景色も料理も、そして人も。カタルーニャの食の旅は、バルセロナの外へ足を延ばした先で、より深い魅力を見せてくれる。
浜田さんが繰り返し語ったのは、料理のおいしさだけではない。その土地の風景、人々との出会い、そして食卓を囲む時間そのものが、カタルーニャの美食体験を特別なものにしている。

Picture of 浜田 岳文(はまだ たけふみ)

浜田 岳文(はまだ たけふみ)

1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国イェール大学政治学部卒業。
これまでに世界128カ国・地域を訪問し、1年のうち5カ月を海外、3か月を東京、4カ月を地方で食べ歩き、国内外のメディアで食と旅に関する情報を発信している。2025年11月より「世界のベストレストラン50」および「アジアのベストレストラン50」日本評議委員長に就任。海外レストランサイトのレビュアーランキングでは8年連続1位を獲得し、世界的美食家として知られる。
2024年6月、『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』(ダイヤモンド社)を出版。