カタルーニャ食紀行 vol.3|なぜ、いまカタルーニャが美食で注目されているのか

2025年、カタルーニャはヨーロッパの地域として初めて、国際ガストロノミー文化機関(IGCAT)が認定する、食文化の持続可能性や地域性を評価する国際認証、 「世界ガストロノミー地域(World Region of Gastronomy)」となった[選定は2023年]。

世界的なレストランを生み出してきた革新性だけでなく、農業、漁業、ワイン、伝統文化まで含めた食のエコシステム全体が評価された結果だ。
なぜ今、世界はカタルーニャに注目しているのか。
フーディの浜田岳文さんに話を聞いた。

世界が評価した「食の多様性」

エル・ブジの残したレガシー、そしてエル・ブジの精神を受け継いだシェフたちがカタルーニャ全域でレストランを構えていること、優れた技術を持っていること。また、エル・ブジの生まれた背景には、そもそもの食文化が豊かなものがあると浜田さんは考察する。カジュアルなものから、一流シェフが手掛けるファイン・ダイニングまで様々な食の形態の多様性こそが、注目を浴びているのではないか。

獲れたてのシーフード(Els Pescadorsより)

獲れたてのシーフード(Els Pescadorsより)

スペインのガストロノミーといえば、 多くの人がバスク地方を思い浮かべるかもしれない。しかし浜田さんは、カタルーニャにはバスクとは異なる魅力があると語る。

「バスクはもちろん素晴らしい食文化を持つ地域です。サン・セバスチャン周辺やビルバオ近郊には世界的な名店が集まり、カジュアルなバルからファインダイニングまで、食の密度は非常に高い。一方で、カタルーニャの面白さは、より広い地域に食の魅力が点在しているところにあります」
カタルーニャでは、州都バルセロナだけでなく、コスタ・ブラバ、ガロッチャ、ピレネー、さらにエブロ川流域まで、それぞれの地域に個性あるレストランが存在している。地中海沿岸から内陸の山間部まで、多様な風土が地域ごとに異なる食文化を育んできた。

コスタブラバにあるレストランEls Pescadors内装

コスタブラバにあるレストランEls Pescadors内装

「バスクが密度の美食圏だとすれば、カタルーニャは広がりの美食圏だと思います。都市にも、海辺にも、山間部にも、それぞれに訪れる理由となるレストランがある。ファインダイニングだけでなく、地元の食材をシンプルに味わえる店も含めて、地域全体に食の厚みがあるんです」
さらにバルセロナは、世界有数の観光都市でもある。建築、アート、街歩きといった観光の魅力に加え、そこから少し足を延ばせば、海の幸に恵まれたコスタ・ブラバや、ジビエ、キノコ、トリュフを楽しめるガロッチャへもアクセスできる。
「そういう意味で、カタルーニャは観光地としての厚みと、食文化の広がりが重なっている地域です。バルセロナだけでも十分楽しいけれど、郊外へ出ることで、この土地の食の豊かさがより立体的に見えてくると思います」

ガロッチャにあるレストラン Els Cols外観

ガロッチャにあるレストラン Els Cols外観

主役は食材か、料理人

カタルーニャが世界の美食家を惹きつける理由は、レストランの数だけではない。

世界のガストロノミーを変えたエル・ブジから、現在のディスフルタールやミラマールへと続く革新的な料理の系譜がある一方で、食材そのものを味わうシンプルな食文化も根付いている。

浜田さんは、その違いを「コシーナ・デ・プロドゥクト(食材の料理)」と「コシーナ・デ・アウトール(料理人の個性を表現する料理)」という言葉で説明する。

「スペインの友人の料理評論家が使っている言葉なんですが、コシーナ・デ・プロドゥクトというのは食材そのものを活かした料理。コシーナ・デ・アウトールは料理人が技術を尽くして表現する創作性の高い料理です」

「前者のわかりやすい例が、バスクのアサドール・エチェバリ(Asador Etxebarri)です。シンプルに食材を2つか3つ組み合わせて、薪火で焼く。一方、カタルーニャにも、素材そのものを活かす食堂やバル、魚介料理、郷土料理がたくさんあり、その対極にディスフルタールのようなコシーナ・デ・アウトールがある。素材の料理と料理人の表現、その両方が高いレベルで存在しているのが面白いところです。」

コシーナ・デ・プロドゥクトの例(Compartirより)

コシーナ・デ・プロドゥクトの例(Compartirより)

コシーナ・デ・アウト―ルの例(Miramarより)

コシーナ・デ・アウト―ルの例(Miramarより)

日本人が惹かれる理由

浜田さんは、日本人とカタルーニャの食文化には共通点も多いと考えている。

「日本料理の文脈でいうと、日本人はどちらかというとコシーナ・デ・プロドゥクト寄りなんですよ」
魚介や野菜など、素材そのものの味を大切にする考え方は、日本人にもなじみやすい。
そのため、初めてカタルーニャを訪れる人には、高級レストランだけでなく、地元のバルにも足を運んでほしいという。
「食材をシンプルにプランチャ(鉄板)で焼いただけのものが、カタルーニャのバルにはある。ボケリア市場のバルなんかでも、鉄板でさっと焼いた魚介や野菜が出てくる。素材の強さをダイレクトに感じられるんです。魚介や野菜のクオリティが本当に高い。だから日本人にも十分楽しめると思います」

コシーナ・デ・プロドゥクトの例(Els Pescadorsより)

コシーナ・デ・プロドゥクトの例(Els Pescadorsより)

なぜ、いまカタルーニャなのか

浜田さんの話から見えてくるのは、カタルーニャの魅力が単なる「有名レストランの集積地」ではないということだ。

世界最先端のガストロノミーがありながら、漁港ではその日に水揚げされた魚介が並び、内陸ではジビエやトリュフの文化が息づく。海と山、都市と田舎、革新と伝統が一つの地域の中に共存している。
だからこそ、「2025年世界ガストロノミー地域」に選ばれたのも決して偶然ではない。
「最先端のレストランもあるし、シンプルな食堂もある。海も山もある。食材も豊か。しかもそれが一つの地域の中にまとまっているんです」
美食を求める旅人にとって、カタルーニャは一度訪れて終わる場所ではない。
季節を変え、地域を変え、何度でも訪れたくなる。
その奥深さこそが、いま世界の美食家たちがカタルーニャに注目する最大の理由なのである。

Picture of 浜田 岳文(はまだ たけふみ)

浜田 岳文(はまだ たけふみ)

1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国イェール大学政治学部卒業。
これまでに世界128カ国・地域を訪問し、1年のうち5カ月を海外、3か月を東京、4カ月を地方で食べ歩き、国内外のメディアで食と旅に関する情報を発信している。2025年11月より「世界のベストレストラン50」および「アジアのベストレストラン50」日本評議委員長に就任。海外レストランサイトのレビュアーランキングでは8年連続1位を獲得し、世界的美食家として知られる。
2024年6月、『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』(ダイヤモンド社)を出版。