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カタルーニャ食紀行 vol.1|はじめての衝撃—— 食材の多様性と「バル」という文化

フーディの浜田岳文さんに聞く、カタルーニャ美食の世界

世界のガストロノミーを食べ歩いてきたフーディ・浜田岳文さん。スペインやカタルーニャには何度も足を運び、その食文化を深く知る人物だ。今回から始まるシリーズインタビューでは、カタルーニャの食の魅力を多角的に語っていただく。

第1回は、初めてカタルーニャを訪れたときの印象と、フランス・イタリアとの違いについて。

ボケリア市場で体感した「食材の凄さ」

——カタルーニャの食に初めて触れたときの印象を教えてください。
「最初に感じたのは、食材の豊かさでした。豊かさといっても、多様性と質の両面での豊かさです。バルセロナに最初に行ったのは20年ほど前のことですが、観光客がみんな訪れるボケリア市場に行くだけで、食材の凄さを体感できるんですよ。しかもその場で食べられる体験もできる。食材の多様性、にまず気づく場所ですね」

ボケリア市場に並ぶ様々な食材

ボケリア市場に並ぶ様々な食材

魚のエリアには当日水揚げされたばかりの新鮮な魚が並ぶ

魚のエリアには当日水揚げされたばかりの新鮮な魚が並ぶ

さらに浜田さんは、当時のバルセロナには3つ星レストランがなく(現在はバルセロナ市内に4つのミシュラン3つ星レストランがある)、郊外の名店まで足を延ばしたエピソードも明かしてくれた。

「当時、付き合っていた彼女にめちゃめちゃ怒られたんですよ(笑)。3泊のうち1日しか観光せず、あとの2日は昼食をエル・ブジの流れを組む『サン・パウ(2018年に閉店)』と『カン・ファベス(2013年に閉店)』を食べに行ったんです。どちらも4時間はかかるコースで、移動往復も2時間かかる。結果、ほぼ1日丸々潰れて……。でも、それぐらいカタルーニャの食が魅力的だったということです」

2018年に閉店したサン・パウ内部

2018年に閉店したサン・パウ内部   ©Imagen MAS

フランス、イタリア、そしてカタルーニャ——何が違うのか

——他のエリアと比べたとき、カタルーニャの食のどこが際立っていますか?
「フランスは本当の美食大国ですが、中央集権国家として長く存在してきたせいか、美食のヒエラルキーがしっかりしています。ミシュランの3つ星や2つ星といった頂点にあるレストランが注目を集める構造で、フランスの伝統を受け継ぐ素晴らしさがある。ただ、カジュアルに食べられる選択肢が多くないんです」 フランスに半年間住んだ経験を持つ浜田さんは、学生時代のランチ事情をこう振り返る。 「軽く食べようと思うとサンドイッチしかないんですよ。ビストロというカジュアルな業態はあるものの、昼から座ってちゃんと食べるという習慣が、少なくとも若い人たちの日常にはあまりない。カジュアルなオプションが限られているのがフランスです」 一方のイタリアは、郷土料理の集まりとして地方ごとに独自の食文化があり、「トラットリア」と呼ばれる業態が比較的安価に提供している。ただし、カジュアルで上質な料理という意味では、スペイン——とりわけカタルーニャが一歩先を行くと浜田さんは見ている。 「イタリアはトラットリアという席スタイルはあるのですが、それよりさらにカジュアルな『バール』となると、飲み物が主です。やっぱりスペインの『バル』という業態はかなり特殊で、飲みながら立ったままおいしいものをサクッと食べられる。あれはもうスペイン独自のものだと思います」
バルの様子、その場で食材を調理し提供してくれる

バルの様子、その場で食材を調理し提供してくれる

キノコの炒めもの

キノコの炒めもの

「バル」こそが、カタルーニャ食文化の象徴

立ち飲みで軽くつまんでそのまま次の店へ——日本のはしご酒にも似た「バル文化」は、カタルーニャでの食の間口の広さを象徴している。どんな食材も、バルでシンプルに調理すれば最高の一皿になる。
3つ星の感動と、路地裏のバルの幸福が同じ街に共存しているのだ。

「バルからミシュランの3つ星レストランまで、本当にすごい幅がある。そこがカタルーニャの食のすごさだと思います」

ボケリア市場内のバルの風景

ボケリア市場内のバルの風景

——世界的な評価と言う観点では、いかがでしょうか。
「フェラン・アドリアが率いるエル・ブジが2002年と2006年~2009年の計5回、世界一に輝きました。(The World’s 50 Best Restaurantsにて)その後、2013年と2015年にはEl Celler de Can Roca(エル・セリェール・デ・カン・ロカ)が2度世界一を獲得。さらに、エル・ブジ出身の3人のシェフによるDisfrutar(ディスフルタール)も2024年に世界一になっています。」

Disfrutarのシェフ3名

Disfrutarのシェフ3名(左から、エドゥアルド・シャルトゥック、ウリオル・カストロ、マテウ・カサニャス) ©Joan Valera

一つの地域から、複数年に渡って世界1位のレストランが生まれ続けるというのは、他に類を見ない快挙だ。
(現在は、一度世界1位に輝いたレストランは殿堂入りとなり、同じ店が再び1位を獲得する仕組みはなくなっている。)

「世界のガストロノミーの最先端」と、「日常に根ざしたカジュアルな食の豊かさ」——
食材からなる「縦の深さ」と食の形態の「横の広がり」が揃っている地域は、世界を見渡してもそう多くはない。

Picture of 浜田 岳文(はまだ たけふみ)

浜田 岳文(はまだ たけふみ)

1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国イェール大学政治学部卒業。
これまでに世界128カ国・地域を訪問し、1年のうち5カ月を海外、3か月を東京、4カ月を地方で食べ歩き、国内外のメディアで食と旅に関する情報を発信している。2025年11月より「世界のベストレストラン50」および「アジアのベストレストラン50」日本評議委員長に就任。海外レストランサイトのレビュアーランキングでは8年連続1位を獲得し、世界的美食家として知られる。
2024年6月、『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』(ダイヤモンド社)を出版。