スペインは3方を海に囲まれた豊かな海洋資源があります。スペインの各地方の伝統料理がそれぞれ全く違った魅力を見せるのも、こうした自然環境のおかげ。
北部にはピレネー山脈を望み、約580kmの地中海沿岸を有するカタルーニャ州では大自然を様々な形で体験できますが、タラゴナ県ラメトリャ・デ・マール(以下、ラメトリャ)で体験できるツナ・ツアーの特別さは、一見の価値ありです。
自然界で漁獲するマグロ漁業は世界的にその漁獲量が厳密に決まっています。市場に出回っている本マグロの多くは蓄養もの。蓄養とは捕獲したマグロを生け簀(いけす)に囲い、生育してよく太らせてから出荷する方法で、スペイン地中海岸沿いでは1990年代から蓄養産業が発展してきました。
世界で寿司が常食になってきたなか、海洋資源を守る意味でも人気魚種の養殖は必須ですが、スペインから輸出されるマグロの96%が日本向けであるという事実も驚きです。
地中海岸沿いで2000年代からマグロ蓄養をしているラメトリャを本拠地にするバルフェゴ社は、国内外でもつとに有名なマグロのトップブランド。
同社は蓄養の中でも、サステナビリティの観点から厳格な蓄養スタイルをとっています。
捕獲からテーブルまで、一貫したトレーサビリティ管理も同社の要となる精神。ファームトゥテーブルならぬ、生け簀(いけす)トゥテーブルを一般向けに開放しているツアーはスペインではここだけです。
大西洋から入りバレアレス諸島沖にたどり着くまで大西洋で時速70kmという速さで動き回っていたマグロは、地中海に入ると本来の大きさから体重は30%も減っているといいます。これを捕獲して、ラメトリャ沖の生け簀(いけす)に連れてくるわけですが、囲いながら船で時速約2km、3週間かけて移動させるという慎重さ。生け簀の中ではゆっくり時間をかけて、天然の餌だけで太らせてゆきます。
ツアー参加客はラメトリャ港で乗船し生け簀(いけす)に到着するまでの行程で、船内でビデオを視聴しながらマグロの生態や、安全装備についてのレクチャーを受け、子供から大人まで、安心して参加できる仕組みになっています。
生け簀(いけす)が近づくと、参加者たちの興奮も最高潮。水族館で見るマグロとは、全く違う野生の姿に興奮しない人はいないでしょう。
シュノーケル体験で自分の体の数倍もある300頭のマグロが悠々と泳ぐ姿を水面から覗くだけでも圧巻ですが、ダイビングライセンスがある人にはある一定条件で、タンクを背負って潜水での体験も可能とか。
筋肉質のマグロの体が広々とした生け簀で育てられている様子を観察したあとは、このツアーのもう一つのメインイベントである、船上での試食を。
まずは脂が適度に回った刺し身を。口の中でとろけるようなテクスチャーに美味しい!という声で船内が盛り上がる瞬間です。そして生きているマグロを身近に見た直後の試食では、同時に海洋資源についての考え方や、私達の日常の食糧や消費の仕方を身をもって感じる瞬間でもあります。
自然を最大限にリスペクトし共存してきたなかで育ってきたカタルーニャの豊かな食材を、まさに全身で体験できる約2時間のツアー。4月から10月中旬までの開催です。ツアーには様々なチョイスがあるので、ご家族連れでも全員で楽しめるはず。一度HPを覗いてみてはいかがでしょう。
■ツナツアー:https://tuna-tour.com/
1995年よりスペイン在住。ライター、通訳、コーディネーター。雑誌「料理通信」「PRECIOUS」「PEN」などへの執筆のほか、「世界遺産」「世界くらべてみたら」「アナザースカイ」などTVコーディネートも多数手掛ける。平成中村座スペイン公演(マドリード、2018年)、OBS(オリンピック放送機構)にてブロードキャスティング・ロジスティックス・マネジャー補佐(東京オリンピック 2021年)を務めるなど、呼ばれればどこにでも行きなんでもやるフットワークと適応性あり。趣味は料理、運動、読書。距離的には遠いスペインと日本を、より身近に感じて欲しいと願いつつ、日々精進中。