「エル・ブジ」フェラン・アドリアと世界のガストロノミー地域2025

「世界ガストロノミー地域 2025」に選出カタルーニャ州

 2025年、カタルーニャ州はヨーロッパ初の「世界ガストロノミー地域」に選ばれました。この地域は地中海沿いに位置し、古代ギリシャ・ローマ、イスラム、そしてアメリカ大陸の影響を受けながら、独自の食文化を創り上げてきました。IGCAT(国際ガストロノミー・文化・観光協会)によって「世界ガストロノミー地域2025」に選ばれたカタルーニャ州では、さまざまなプロジェクトが進行中です。

 12月9日、バルセロナで開催された発表会では、2025の「世界ガストロノミー地域」に向けて、カタルーニャの食文化を促進するさまざまな取り組みが紹介されました。カタルーニャ州首相のサルバドール・イリャ氏は、「世界一位に輝いたレストランが3軒も存在する地域は、他のどこにもない」と語り、伝説となった「エル・ブジ」、ジローナの三つ星「エル・セリェール・デ・カン・ロカ、バルセロナの三つ星で、2024年、念願の世界1位に輝いた「ディスフルタール」を挙げました。首相は「ガストロノミーは単なる料理ではなく、アイデンティティや歴史、未来そのものである」と強調しました。

ジローナ「エル・セリェール・デ・カン・ロカ」

(photo by El Celler de Can Roca)

バルセロナ「ディスフルタール」(photo by Disfurtar)

 カタルーニャ州は、77のミシュランの星を誇る、美食の地として知られています。この発展には、「エル・ブジ」のシェフ フェラン・アドリア氏の存在が欠かせません。スペインだけでなく、世界の料理界に革命をもたらしたアドリア氏。発表会にも登壇し、カタルーニャのガストロノミーの進化と未来への強い想いを語りました。アドリア氏の革新的なアプローチは、料理の枠を超えて、世界に大きなインスピレーションを与え続けています。

ガストロノミー界の革命児、フェラン・アドリア

フェラン・アドリア氏(photo by elBullifoundation)

 「エル・ブジ」は、世界最高のレストランに5回選ばれ、1997年から2011年の閉店までミシュラン三つ星を維持し続けた伝説のレストランです。2003年8月10日、ニューヨーク・タイムズに「新ヌーヴェル・キュイジーヌ(The Nueva Nouvelle Cuisine)」というタイトルで、フェラン・アドリア氏が表紙を飾る特集が掲載されました。この特集では、“新しいスペイン料理”が注目され、スペインがフランス料理の支配を超えて、世界の美食の中心地になったと結論づけられました。1年後、タイム誌はアドリア氏を「世界で最も影響力のある100人」の一人に選び、料理人として初めてその栄誉を与えました。

引き継がれる「エル・ブジ」の精神、
今も世界の美食シーンに革新をもたらす

バルセロナ「ドス・パリージョス」(photo by dos palillos)

 2011年、世界中の美食家に惜しまれながら、エル・ブジは人気絶頂の中で閉店しました。その理由は、「ガストロノミー体験のすべての限界を広げきってしまったから」。

 

 エル・ブジで研鑽を積んだシェフたちは、世界のオートキュイジーヌのレストランでその腕を振るっています。たとえば料理長を務めた、バルセロナの三つ星、世界No.1レストラン「ディスフルタール」のオリオル・カストロ氏、エドゥアルド・シャトルシュ氏、マテウ・カサニャス氏や、一つ星「ドス・パリージョス」のアルベルト・ラウリック氏などが挙げられます。さらに、バスクの二つ星「ムガリッツ」のアンドニ・ルイス・アドゥリス氏、コルドバの三つ星「ヌール」のパコ・モラレス氏、国外では、米国の「ワールド・セントラル・キッチン」創設者ホセ・アンドレス氏、イタリアの三つ星「オステリア・フランチェスカーナ」のマッシモ・ボットゥーラ氏、「ノーマ」のレネ・レゼピ氏など、名だたるシェフたちの活躍からも、「エル・ブジ」が与えた影響の大きさがうかがえます。

 

エル・ブジが生まれた場所へ
ミュージアム「エル・ブジ1846」

エル・ブジ1846(photo by elBullifoundation)

 エル・ブジ閉店から約12年の時を経て、2023、世界初のレストラン改装型博物館「エル・ブジ1846」がオープンしました。「1846」は、エル・ブジで創り出された料理の数(1846品)に由来しています。ミュージアムのあるジローナ県ロザスのカラ・モンジョイは、かつてエル・ブジがあった場所で、独特の生態系を誇るクレウス岬自然公園の園内に位置しています。約4,000平方メートルの広大な敷地(屋外2,500平方メートル、屋内1,300平方メートル)に広がる博物館での2時間の見学を通じて、会社としてのエル・ブジの歴史や、エル・ブジ財団が主導するすべてのプロジェクトについて学ぶことができます。


 「エル・ブジ1846」は、エル・ブジの歴史と偉業を受け継ぐだけでなく、飲食業界の教育のための質の高いコンテンツを提供することを目的としています。「料理とは何か?」「クリエイティブとは何か?」「伝統的な料理とは何か?」「手は最初の料理道具か?」といった問いを通じて、ガストロノミーや創造性について深く考えることができます。

2025年、カタルーニャ州が
「世界のガストロノミー地域」の聖地に

バルセロナを代表する市場「ボケリア」

(photo byReserva Ibérica)

 「世界ガストロノミー地域2025」の認定は、カタルーニャ州が環境に優しい、新しい観光の形を創り上げた証でもあります。この機会に、レストランだけでなく、地元の食材が生まれる場所を知る機会が広がることも期待されています。フェラン・アドリア率いる「エル・ブジ財団」も、このプロジェクトの推進パートナーとして活動しています。

 

 2025年には、展示会、講座、世界ツアーなど、カタルーニャのガストロノミーを促進するさまざまな催しがが行われる予定です。伝統を受け継いだ郷土料理や、創造性豊かなモダン・カタルーニャ料理を、ぜひ現地で体感してみてください。この認定を機に、農業、漁業、ワイン産業、飲食・観光業界が一丸となり、ガストロノミーを通じてカタルーニャの魅力がさらに世界中に広がることを願っています。

原田 郁美(はらだ いくみ)

原田 郁美(はらだ いくみ)

スペインワインと食協会共同代表。山口県出身。大学卒業後、広告代理店でデザイナーとしてのキャリアを積んだ後、スペインに語学留学。バルセロナでの3年間の生活を通じて、スペインワインと食文化に深く魅了され、帰国後は「日本とスペインをつなぐ架け橋」を志して独立。2011年に「スペインワインと食協会」を設立。2012年からはプリオラートでのワイン造り、国際営業マネージャー、スペインワインのプロモーション活動、及び執筆を手掛ける。WSET ® Level 3 (Wine & Spirit Education Trust), Spanish Wine Specialist(ICEX-スペイン貿易投資振興機構認定)

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