@Cristian García

Gaudi と Gastoronomy

ガウディ建築を堪能しよう。

今回では建築ではなく、食としてガウディに接する方法を紹介したい。ガウディが設計した建築のいくつかはカフェやレストランになっていることをご存じだろうか。ガウディ建築のイメージといえば、サグラダ・ファミリア教会やグエル公園のような教会や公園といった公共性の高い建築のイメージを伴うが、近年はカフェやレストランとなっているものがあるのでそれをここで紹介しよう。

レストラン〈カサ・カルベット〉

カサ・カルベットは織物製造業者のカルベットの未亡人とその息子たちが地上階に会社、上階に住宅をという機能でガウディに設計依頼したものである。ガウディがはじめて市内に手がけたアパート建築であり、ガウディの存命中である1900年にバルセロナ市の最優秀建築賞を受賞した作品である。ガイドブックなどでは、本建築をバロック様式として紹介されることが多いが、一見するとどこがバロック建築なのかと頭をかしげてしまう。というのも、バロックの特徴である波打つファサードやねじれた柱が発見できないからだ。しかし、一歩アパートの正面玄関を踏み入れると、ねじり柱などのうねる造形が目にとまるので、ぜひ覗いてみてほしい。しかし、そこはアパートの入り口であり、かつてカルベット家の事務所があった地上階の入口が、現在はレストランとなっている。かつては市内で唯一、ガウディの空間でフルコースを食べることができる場所であったが、近年は中華レストランへかわっている。内装の随所にガウディが手がけたデザインが残されている。例えば、当時としては珍しい鉄骨を利用した構造体や、ガウディが注力した机や椅子などのオーク材で制作された家具にも注目してほしい。ここで制作された家具の経験がサグラダ・ファミリア聖堂の典礼家具へと活かされているため、食のみならず家具も堪能してほしい。なお、カマレロ(ウェイターさん)に、オリジナルの家具がどうかは確かめた方がよいだろう。

 

レストラン〈ガラフの酒蔵〉

バルセロナから南に30kmほど行ったところにガラフという街がある。カタルーニャ州立鉄道(ロダリース・デ・カタルーニャ Rodalies De Catalunya)で訪れることができる。ガウディの生涯のパトロンであったグエル伯爵が1895年にガウディにワインの醸造所と、住居空間、狩猟客の客室、礼拝堂、物見櫓併設を依頼した。長い間、ガウディの協力者の一人であったフランシスク・ベレンゲールの作品として紹介されてきたが、長年の研究を経て本作はガウディの設計だと認定されている。一階はアーチが連続したヴォールト空間となっており、当時は蔵だった場所が、現在は〈Gaudi Garraf Restaurante〉としてレストランとなっている。

GaudiとGastoronomy

ここでは、地中海料理を楽しんだあと、食後はぜひ屋上に登ってほしい。屋上にはグエル家専用の礼拝堂があり、その手前には地中海を一望できる展望空間が設置されている。ワインの酔い覚ましがてら、この展望空間で地中海の風になびかれながら小休止するのは至福の瞬間である。ただし、階段のみのアクセスのため滑り落ちないようだけ注意していただきたい。

Garraf_mirador

 

カフェ〈カサ・ミラ〉

ガウディが1912年に竣工させたカサ・ミラという建築がある。バルセロナの目抜き通りであるパッセージ・ダ・グラシア(Passeig de gracia)の一角にあり、モンジュイックの石灰岩によって被覆された巨大の石の塊から、現地ではラ・ペドレラ(石切り場の意味)として親しまれている。それぞれの部屋が鍾乳洞をうがったような印象を与える外観から、その内部に興味がわくだろう。それを堪能したければ、二階に開かれているカフェに行くことをお勧めする。このカフェの最大の見所は、うねる天井を間近にみることができるのだ。復元だが、その精巧な波打つ漆喰の天井は、光が戯れるキャンパスであり、刻々と変化する光の移り変わりを楽しみながらコーヒーを飲むことができる。

カフェで一休みしたら、上階のアパートを見学すると、当時の住民の生活が展示されている。そこでは、ガウディ建築ではなかなか目にすることができない一般家庭のキッチンをみることができる。壁沿いに水回りやコンロが配置されているため、かなり独特のレイアウトだが、空間に着目すると、窓が大きく開かれていることがわかる。光り溢れる空間で料理するのは、大変気持ちよさそうである。

Casa Mila_Cocina

この他にも、カサ・バトリョの隣に建つカサ・アトリエールにはチョコレート屋が入り、カフェとなっている。その設計者はガウディと同時代の建築家プッチ・イ・カダファルク(Josep Puig i Cadafalch)であり、彼が手がけた旧市街のクアトロ・ガッツは、ピカソが通っていたカフェである。

cuatre gats

@Lluís Carro

 

バルセロナには、近代建築運動時に建てられたモデルニズモと呼ばれる建築が数多く残っており、そのなかで食文化を楽しむという散策の仕方もバルセロナならではの、食べ歩きとなるのではないだろうか。

 

山村 健(やまむら たけし)

山村 健(やまむら たけし)

1984年山形県生まれ。2006年早稲田大学理工学部建築学科卒業。06年バルセロナ建築大学留学。09年早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。12年同大学院博士後期課程修了。12~15年ドミニク・ペロー・アルシテクチュール勤務。16年YSLA ArchitectsをNatalia Sanz Lavinaと共同主宰。早稲田大学専任講師などを経て、20年東京工芸大学准教授。博士(建築学)、一級建築士。

パートナー企業: