山海の食材に恵まれたカタルーニャは、従来の革新的な気質と伝統料理が融合し、過去30年間、前衛料理と呼ばれるファインダイニングのレストランの発展が著しい土地です。SNSの影響もあり、世界のグルメが目指す土地となって久しいですが、カタルーニャ旅行の際には今話題の高級料理店はもちろんのこと、原点回帰で敢えてローカル色の強い食イベントへの参加するのも、一層土地の魅力を感じられる面白い体験です。
実はカタルーニャ州内では国内有数の規模で養豚業が展開されています。州内でよく食されるブティファラというパプリカを入れない白い豚肉ソーセージはカタルーニャを代表する食材ですが、このソーセージをめいっぱい食べるのが、毎年3月半ばの週末に行われるバルセロナ県ラ・ガリーガ市のブティファラ市。バルセロナ市から北東40kmほどに位置する、この小さな街がソーセージの香りで満たされる、春を告げる風物詩です。
初夏にカタルーニャを訪れるのであれば、夏の始まりを告げるサンジョアンの日(6月23日)のコカと呼ばれるデニッシュを試してみるのもいいでしょう。この時期にはコカ・デ・サンジョアンをお題としたコンクールが各地でありますが、アニスの香りに幼少期の記憶を呼び起こされるというカタルーニャ人も多い伝統菓子です。丸や楕円の大きく牧歌的な形は夏至の太陽を象徴しており、ブリオッシュのような柔らかな生地に砂糖漬けの果物や松の実を飾ります。
毎年1月の最終週末にタラゴナ県バイス市で開催される、炭火で焼いたネギの大食い大会「カルソタダ・デ・バイス」は近年、日本のテレビなどで取材が
あるほど、知名度があがってきました。
カルソッツはポワロとは違った、日本のネギに近い形の柔らかな長ネギ。これを炭火で焼き外を焦がすと、中はとろとろになります。黒い皮を剥ぎ取り、ロメスコソース(赤ピーマン、にんにく、オリーブオイル、トマト、アーモンド、固くなったパンを混ぜたソース)につけて頂くというスタイル。長いままいただくので、ソースが垂れないように前掛けをして、上をむいて食べる姿がなんとも楽しいイベントです。薪火で大量のネギを焼く光景も圧巻。
ジローナ県で有名なのはラスカーラのアンチョビ市です。こちらも地元で30年以上続くイベント。ローマ遺跡が多く残るジローナ県海岸部に位置するこの小さな港町のアンチョビは、国内ではつとに有名なブランド品です。オリーブオイルに漬けて約8ヶ月ほど熟成させた旨味が、野菜を焼いた伝統料理エスカリバーダなどとよく合いカバがすすむことうけあい!毎年10月開催です。
内陸にも目を向けてみると、また一風変わった食イベントが。ピレネー山脈の入り口に当たるリェイダ県のカタツムリ市は特筆に値するでしょう。「ラプレック・ダル・カラゴル(L’Aplec del Caragol)」と呼ばれるカタツムリの炭火焼き大会ですが、毎年5月の中旬(2026年は5月22、23、24日開催)に述べ20万人を集め、13トンのカタツムリを食するという壮大なイベント。フランスのエスカルゴよりもずっと小ぶりなカタツムリは前もって小麦粉の中に入れるなどして土をよく吐かせ、刻んだニンニク、イタリアンパセリとオリーブオイルをふんだんに殻ごとまぶしてから炭火で調理。楊枝でひっかけながら、アリオリにつけて頂くのがリェイダ風です。
地元に長く続くこうした食のイベントでは、言葉がわからない…などと躊躇する必要はありません。ワインを片手に、長テーブルや屋台先で地元の人達とひとときを分かち合い土地の滋味あふれる料理を味わえば、カタルーニャ人気質というのが、より近く実感できるに違いありません。
1995年よりスペイン在住。ライター、通訳、コーディネーター。雑誌「料理通信」「PRECIOUS」「PEN」などへの執筆のほか、「世界遺産」「世界くらべてみたら」「アナザースカイ」などTVコーディネートも多数手掛ける。平成中村座スペイン公演(マドリード、2018年)、OBS(オリンピック放送機構)にてブロードキャスティング・ロジスティックス・マネジャー補佐(東京オリンピック 2021年)を務めるなど、呼ばれればどこにでも行きなんでもやるフットワークと適応性あり。趣味は料理、運動、読書。距離的には遠いスペインと日本を、より身近に感じて欲しいと願いつつ、日々精進中。