神出鬼没?!ジローナFC

 23-24シーズンのLALIGAにおいて「台風の目」という存在をいきなり飛び越えて「優勝候補」の一角にまで一気に、奇跡的に成り上がったカタルーニャのサッカークラブがある。その名もジローナFC。

 

バルセロナから北に約100キロ離れたジローナ県ジローナに位置する同クラブは1930年創立ながら長年下部リーグのセミプロクラブで1部リーグを戦う経験は今季ようやく4年目の新興勢力だ。

突然変異的なジローナFCの強さには確かな理由がある。まずは2017年にプレミアリーグの強豪で昨季の欧州王者であるマンチェスター・シティを筆頭に世界中にサッカークラブを抱えるシティ・フットボール・グループがクラブの株式47%を取得し傘下に収めたこと。これによって世界屈指のトレーニング・メソッド、スカウティング網がジローナFCでも利用できるようになり、特にグループが抱える世界中の若手タレントの受け入れ先として良い選手を獲得できるようになった。

@Catalan Tourist Board

 その象徴が今季のLALIGAにおいて「最大のサプライズ」となっているサイドアタッカーの“サヴィーニョ”ことサヴィオ・モレイラだ。ブラジルの名門アトレチコ・ミネイロ出身のサヴィーニョは2022年夏にシティ・グループ傘下のフランス2部クラブのトロワACへと移籍。世界中にサッカークラブを抱えるシティ・グループは選手の年齢やレベルに応じた移籍プログラムを組んでおり、今季はジローナFCがサヴィーニョの受け入れ先となる。

 

若干19歳のサイドアタッカーは今季序盤からハイレベルなLALIGAの守備陣を切り裂くドリブルでアシストを量産し、あっという間にLALIGA屈指のドリブラーの称号を得る。そして、彼の活躍をグループ内で共有すると年明けには来季からのマンチェスター・シティ移籍が内定したとの報道も出ている。

 

ジローナFCの強さのもう一つ、そして最大の理由はミチェル監督だ。ホームスタジアムのモンティリビにおいて「MICHEL CATALA(ミチェル、カタルーニャ人)」というゲーフラが掲げられる通り、マドリード出身の指揮官はカタルーニャの文化と言語、何よりジローナでの生活に歩み寄りをみせており、今や試合前後の監督会見はできる限りカタルーニャ語を駆使して行われている。

ミチェル監督が植え付けたジローナFCのサッカーも革新的だ。前述のサヴィーニョやウクライナ人コンビのツィガンコフ、ドフビクといった前線のタレントはいるものの、個に依存しない戦術的かつ攻撃的なサッカーで今季開幕から快進撃を続け、前半戦は何とバルサの敵地で2-4と撃ち勝ってみせた。「いつこの勢いは止まるのか?」と言われ続ける中、後半戦も2月終了時点でいまだ2位につけるミラグロ(奇跡)を披露する。

 

カタルーニャにおいてFCバルセロナの存在は「クラブ以上の存在」故に唯一無二ながら、今季のジローナFCの躍進から世界中のフットボールファンが「ジローナ」という街の存在に気づき、カタルーニャを訪れることがあれば「足を伸ばしてジローナFCのフットボールを観てみたい」と考えるようになっている。

@Catalan Tourist Board

スペインでは稀に観光資源も人口も少ないローカル都市に突然LALIGAの1部クラブが誕生することがある。人口5万の田舎街にあるビジャレアルはいまだ欧州の中でも強豪クラブの位置づけであり、2015年から5シーズンに渡り乾貴士が所属したSDエイバルもバスク州ギプスコア県にある人口3万人に満たない内陸街だ。

 

今季のジローナFCの大躍進によって少なくとも世界中のサッカー好きが認識をしたジローナの街にはイベリア人が築いた中世の建築物が並び、厳かな雰囲気の街並みの中では旧市街に大聖堂もそびえ立つ。バルセロナ滞在中にFCバルセロナの試合がない週末、電車で1時間ほど揺られてジローナに降り立ち、モンティリビでジローナFCのミラクル・フットボールを観ることを主目的としたジローナ遠足を是非、日本のフットボールファンにもおすすめしたい。

写真3ジローナ-@Oscar-Vall.-イメージバンクPTCBG

ジローナ@イメージバンクPTCBG

ジローナ@イメージバンクPTCBG

ジローナ@イメージバンクPTCBG

ジローナ@イメージバンクPTCBG

小澤一郎(おざわ・いちろう)

小澤一郎(おざわ・いちろう)

1977年、京都府生まれ。Periodista(サッカージャーナリスト)。早稲田大学卒業後、社会人経験を経て渡西。スペインで5年間活動し、2010年 に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在はU-NEXTでLALIGAの解説を担当。新刊(24年1月)に『サッカー戦術の教科書 プレーモデルが試合を決める』(マイナビ出版)。株式会社アレナトーレ所属。

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