未完のサグラダ・ファミリアは、人々を引き付けてやみません。2026年はガウディ没後100年の記念すべき一年でもあり、ガウディの命日である2026 年6月10日には、イエス・キリストの塔の完成を予定しています。パンデミックの後から、急ピッチで進んでゆく建設中の姿をその目におさめておくことはバルセロナ訪問時のマストですが、時間が許せばまた、別のバルセロナの姿にも触れてみるのも面白いかもしれません。
©Alex Kane
街を歩けばモダニズムの美しい建物が並ぶバルセロナ。カタルーニャは繊維業を中心に19世紀に急激に豊かになった歴史があります。スペイン全国から集まる労働者で人口増加が進む中、イルデフォン・セルダの手により19世紀半ばから欧州でいち早く都市計画が実施されました。現在では海外からのデジタルノマドの移住者も多く、伝統と文化が先端技術や新しい世界のコンセプトと混じり合う街。バルセロナのイメージはガウディに代表されることが多いですが、街には今、実際にどんなアートが生まれようとしているのでしょうか。多数の芸術家を輩出し、魅了して止まないバルセロナの街の芸術は、どんな未来を描こうとしているのか、現代アートの美術館を訪ねることで、見えてくるかもしれません。
カタルーニャ現代美術の中の“クラッシック”ともいえる、アントニ・タピエス。彼の美術館は観光の中心地であるグラシア通り近くにあり、アクセスも容易です。タピエスが尊敬して止まないミロは「絵画を殺したい」という強い言葉を残しキャンバスを超えた絵画表現を試みましたが、タピエスはその影響も強く受け、アカデミックな芸術要素すべてにアレルギー反応があった、と語っています。クレーやダリの影響を感じるような彼の初期の作品は日本ではあまり鑑賞の機会がなく、新鮮な刺激を与えてくれるでしょう。岡倉天心の「茶の本」を愛読していたという作家の書道を思わせるような黒の色使い。繰り返される黒い十字のシンボル。
Antoni Tàpies. Nocturn, 1952.
Col·lecció Museu Tàpies, Barcelona
© Comissió Tàpies /VEGAP, 2025.
2026年には作家のタピエスの作風と実践が大きく変容した1950年代の作品を探る「壁の永続的な運動(Movimiento Perpetuo del muro)」(2026年2月12日〜9月6日)が公開予定。展覧会ではタピエスの作品を通じて近代建築、工業、グラッフィックデザインや都市空間などより広範なテーマと結びつけてゆきます。市内のミロ美術館訪問後に、タピエスの作品をみることも魅力的。バルセロナ出身の作家層の厚さと、コンテンポラリーな表現の中に脈々と受け継がれる伝統を感じていただけるはずです。
©Jacquelin Glarner
民間財団である、ビラ・カサス財団が運営するカン・フラミス美術館は、日本のガイドブックで取り扱われることは希少かもしれません。ポブレノウ地区の18世紀の繊維工場跡地に300以上のカタルーニャ州内のコンテンポラリーアートを集める美術館です。財団の創立者は実業家のアントニ・ビラ・カサス。彼は1930 年に繊維業を営む裕福な一家に生まれましたが、自身は医薬品製造業界で活躍。スペイン全国に名を馳せる成功を治めた人物ですが、カタルーニャの芸術家たちのパトロンとして君臨した人でもあります。
財団は1930年からのカタルーニャのアーティスト作品を収集。2030年まで現代作品を収集し過去100年のカタルーニャ人のクリエイティビティを探るという壮大なプロジェクト。財団は4つの美術館を運営していますが、この中で絵画のコレクションがバルセロナ市内Can Framisに、展示されています。バルセロナで制作を続ける現代アーティストなら必ず訪れているこの美術館で、今のカタルーニャの息吹を感じるのも貴重な体験になるでしょう。
©Lourdes Jansana
バルセロナ市が運営するディセニィ・ハブ・バルセロナは、デザインと名のつくものならなんでも幅広く企画展をし、コレクションを有する博物館です。バルセロナの街の重要なコンセプトのひとつである「クリエイティビティ」を追求するハブ的な公共施設であり、街と文化、過去と未来のコンセプトをデザインを通じて、ときに教育的な視点で市民を啓蒙してくれる場所。
優良なデザインはある一定のアーティストや空間にだけ属するものでなく、私達の普段の生活にどれほどの影響を与えどれだけ身近なものなのか、ということをプロダクツデザインの展示や、ファッションモードのコレクションなどを眺めるだけでも体感できます。この博物館がクリエイターのハブ的存在となっているのは、ここに優良なデザイン図書館、アーカイブがあるから。装飾芸術全般(グラッフィック、工業、テキスタイル、空間、ファッションなどのデザイン)を専門とする人には垂涎の資料が揃い閲覧可能。今まさにモノを作り出そうとしているバルセロナのクリエイターたちと一緒に資料を眺めるだけでも、創作のインスピレーションが湧いてきそうです。
1995年よりスペイン在住。ライター、通訳、コーディネーター。雑誌「料理通信」「PRECIOUS」「PEN」などへの執筆のほか、「世界遺産」「世界くらべてみたら」「アナザースカイ」などTVコーディネートも多数手掛ける。平成中村座スペイン公演(マドリード、2018年)、OBS(オリンピック放送機構)にてブロードキャスティング・ロジスティックス・マネジャー補佐(東京オリンピック 2021年)を務めるなど、呼ばれればどこにでも行きなんでもやるフットワークと適応性あり。趣味は料理、運動、読書。距離的には遠いスペインと日本を、より身近に感じて欲しいと願いつつ、日々精進中。