ユネスコの無形文化遺産にも認定されているカタルーニャ伝統文化、カステリェルス(人間の塔を作る人たちを指す)ご存知でしょうか。ときに6層〜9層にもなる「人間の塔」と呼ばれる、ある面ではスポーツ的な要素も十分に含むこの伝統が生まれたのは18世紀タラゴナ県でのこと。サッカーの興隆やサルダナのようなもっと簡単な踊りなどの流行もあり、20世紀初頭にはカステリェルスの文化は廃れかけた時代もあると言います。
©Coordinadora de les Colles Castelleres de Catalunya
一時期、歴史の中で低迷した時期もありましたが、地域の伝統として受け継がれ、現在ではカタルーニャ文化を象徴する存在として再び注目されています。 1980年代に入ると州内の各所でコリャと呼ばれるカステイ(人間の塔を指す)を組む団体が現れ、92年のバルセロナオリンピックでの演舞での国際的認知も追い風に、今では州内では欠かせない文化のひとつとなり、コリャも70団体を数えるほどになっています。州内の市町村や地区にひとつはありますが、バルセロナは例外。市内6つ団体を数えています。大学生と先生だけで構成される団体もあれば、バルセロナ県のベルプラット(Bellprat)という村では毎年10月に女性だけのコリャで人間の塔を作ることも。「人間の塔」国際記念イベント(隔年開催、Concurs de Castells開催時にタラゴナで開催)では、パリ、アンドラ、コペンハーゲン、ムンバイからの参加もあるほどに人気が高まっています。
©Coordinadora de les Colles Castelleres de Catalunya
この文化にスポーツ的要素が多大にあるのは、強靭な体力とバランス、筋力などを必要とするから。もちろんチームワークも必須です。通常コリャは場所を借りたりして練習場を確保、週に何度も集まって練習する団体も珍しくありません。安全に塔を重ねてゆくためには、衣装も大切なアイテムです。それぞれのコリャの決めたカラーシャツに白いズボン、ファハと呼ばれる腰に巻く黒い布は筋肉を守る意味でも、そして上に登っていく際に足を掛ける場所としても重要。下で支える役の人には上の人々のすべての体重がかかってくるわけですから、彼らはその重さに耐えるときシャツの襟を噛むこともあります。髪の毛をまとめるパニュエロ(スカーフ)もお揃いで。力強く塔を上へ上へと作り上げるには、衣装も安全対策の重要な役割を果たしています。
©Coordinadora de les Colles Castelleres de Catalunya
カステリェルスのシーズンは古くは6月24日〜10月21日(ウルスラ聖人の日)とされてきました。12月と1月はいわばシーズンオフですが、多くは春夏の地区の守護聖人の日、季節のまつりや週末に州内各地で披露され、その数は年間1万件を数えるとか。10年ごとに一桁台が1のつく年には、2月2日に州内すべてのコリャがそれぞれの場所で同時にカステイを組むという記念日もあります(次回は2031年2月2日)。 通常人間の塔は、日曜昼に行われますが、6月23日(サン・ジョアンの日)のバイス(Valls)では、夜11時45分のカステリェルスをみることができます。夏至を祝って花火があがり、夏の始まりの高揚感も相まって印象的なイベントです。
2年に一度タラゴナ県で3日間に渡って行われるカステイ大会「Concurs de Castells」では、その難易度によって採点がなされ優勝者が決まります。複雑な形で高くなればなるほど素晴らしいとされ、難易度の高い塔への挑戦に、この大会を目標にするコリャも多く、40以上の団体が登録。もとは闘牛場だったタラコ・アリーナのスタジアムの中で塔を作り上げてゆきます。前回は人間の塔を作り上げるコリャのメンバーと観客をあわせて1万人を超える参加者がありました。その集中と熱狂の様子は圧巻です。大会はTV中継もされ、42万人の視聴者を湧かせました。賞金も高額で、参加者も観客も熱の入りようが違います。
©Coordinadora de les Colles Castelleres de Catalunya
人間の塔は日曜日の昼に市町村の広場で行われますが、2つ〜4つほどの団体がそれぞれ塔を作ってゆくのが定番です。ひとつのコリャが塔を作っている間は、他のコリャはしっかり見守る。通常、勝ち負けはありませんが、難易度の高い塔を作り上げた方に送られる拍手は、より大きく長い時間になります。そうした瞬間の、参加者たちの嬉しそうな顔や抱き合う姿を見ていると、地域に生きることの素晴らしさに改めて感動するでしょう。
©Eric Medous
塔を披露する際の音楽も重要な役割を果たしています。グラリャ(Gralla)と呼ばれる笛と太鼓はカステイを組む際の「道標」的な存在。音楽なしにはカステリェルスは始まりも終わりもないのです。小さな子どもが2層目、3層目とよじ登り、最後に頂上で手をあげて塔の最上部が完成した際の音も決まっています。人間の塔をひとつふたつ見てみると、音楽のタイミングがいかに重要で音楽隊までも手に汗握りながら、音で応援しているのがわかります。
©Coordinadora de les Colles Castelleres de Catalunya
ユネスコ遺産に認定されてもカステリェルスが守り抜いているのは、コリャのアマチュア性。週末ごとのパフォーマンスで賞金などが生じることはなく(例外はConcurs de Castells)、どんなに難易度が高い塔を実現しても、挑戦と自己実現の場としての評価を最も大事にしています。家族と一緒に体一つで参加できるのも魅力で、地域ごとで行われるゆえコリャに属するだけで、自分の住んでいる地域の人々との交流が一気に広がるのです。スペイン各地に伝統文化は多々あれども、これほどチームワークを要し、文字通り人と人をつなげることができる文化は少ないかもしれません。
カタルーニャ滞在中には、是非カステリェルスのスケジュールをチェックして、気軽に広場に出向いてみてください。
■人間の塔イベント検索エンジン
https://castellscat.cat/en/schedule
■Concurs de Castells HP
https://eng.concursdecastells.cat/
■タラゴナ観光局HP
1995年よりスペイン在住。ライター、通訳、コーディネーター。雑誌「料理通信」「PRECIOUS」「PEN」などへの執筆のほか、「世界遺産」「世界くらべてみたら」「アナザースカイ」などTVコーディネートも多数手掛ける。平成中村座スペイン公演(マドリード、2018年)、OBS(オリンピック放送機構)にてブロードキャスティング・ロジスティックス・マネジャー補佐(東京オリンピック 2021年)を務めるなど、呼ばれればどこにでも行きなんでもやるフットワークと適応性あり。趣味は料理、運動、読書。距離的には遠いスペインと日本を、より身近に感じて欲しいと願いつつ、日々精進中。