はじめまして。私は日本に住む車いすユーザーの織田友理子です。私はこれまで世界20カ国以上を車いすで訪れてきました。
バルセロナは日本でも人気の観光地ですが、車いすでは行けないと思っている人も多いのではないでしょうか?でも、実際にはバルセロナは、車いすユーザーも安心して楽しい旅行ができる素敵な場所なんです。ただ、残念なことに、日本の皆さんにそうした魅力が伝わっていないのが現状です。
バルセロナは私の妹・節子が住んでいることもあって、これまで3回、車いすで訪問したことがあります。夏・冬・秋に訪れたのですが、どの季節も本当に過ごしやすくて感動しました。そこで今回、車いすユーザーなどの障害者でも楽しめるバルセロナの魅力を、妹の節子と会話形式でたっぷりお伝えしたいと思います。
金井 節子:
私が初めてバルセロナに来たのは2009年で、その時、2週間だけスペイン語の語学学校に行ったんだ。当時はまだ携帯電話のインターネットも使えなかったし、滞在期間はずっと公共交通は地下鉄を利用していたの。地下鉄だったら降りる場所も間違えないし、簡単だと思って。
織田 友理子:
私が利用したときも、サインもとても分かりやすいし、動きやすかったのを覚えてるよ。バルセロナの地下鉄は先頭車両に必ず車いす用の車両があったね。車掌さんにも近くて安心だし、迷う事もなかったよ。ホームに着いたら迷わず向かう方法がわかって。
日本の地下鉄だとスロープを車掌さんが出して下さるけど、バルセロナは自由に乗って下さい、みたいな感じだよね。 私が初めてバルセロナを訪れたのが2012年のことで、 まだ 車椅子になってから 海外の公共交通をたくさん試していた時期ではなかったから、色々なことが新鮮だった。公共交通についてすごく興味を持ったのは日本と全く違う運用だったことに驚いたからかな。当たり前ってないんだなと思ったよ。
それで私が大感激したのは、日本でよく見る持ち運び型のスロープじゃなくて、ホームに一車両分の幅がある巨大なスロープが後づけで設置されていた駅があったの!! 「何これーー!!」って本当にびっくりした!!
節子:
そんなに衝撃だったんだね。たくさん写真撮ってって言ってたもんね。日々、バリアを痛感している人のコメントだね。何気なく乗っていたら気づかないポイントかも。
友理子:
駅によっては段差や隙間がまだ残っていたり、単独乗降するのが難しいところもあったけど。バルセロナの地下鉄で、車両とプラットホームの隙間や、段差に関してはゼロではないけど、基本的には介助者の力を借りればなんとか乗車できるという印象だった。
節子:
そうだね、そこは助け合いで乗り越えられるバリアかな。こっちでは困っている人がいたら声をかけてくれたり、手を貸してくれる人が沢山いるから、なんとかなることが多いよね。
第2話のバスの話では100%がバリアフリーという話だったけど、バルセロナの地下鉄に関しては、2023年12月時点では92%、165のうち、12駅がまだバリアフリー化が終わってないようだよ。これらは主に昔からの主要な駅だね。
節子:
確かに駅は一度、出来上がってしまったら変えるのはすごく大変だし、特に主要な古くからある駅であるほど、対応していくのが難しいという現実もあるよね。昔はバリアフリーについて今のようには考えられていなかったはずだから、改修していくのは費用がかかってしまったり、課題があるね。逆に、新しい駅は初めからバリアフリーを考えて設計されているから使い勝手が良いという点もあるね。
友理子:
段差や隙間がある場合は日本のようなスロープを出してくださるスタイルの方が安心ではあるんだけど。でも 世界的に見ればわざわざ駅員さんがスロープを設置してくださる都市は少数派。ではどう対応すべきかと考えたときに、大掛かりな工事を必ずしもしなければいけないわけではなくて、後からでもこうして段差解消できるんだなって目から鱗だったよ。あまりお金のかからず簡易にできる工事な気がして。そんな解決方法を見つけたのがうれしくて。
段差や隙間がある駅って本当にいっぱいあって、日本も徐々に解消するように工事が進められているけれど、 こんなふうに簡単な設置で解決するのであれば、バリアフリーがもっと進むんじゃないかとすごく好事例を見せてもらった気がしたよ。世界も日本も参考にしてくれたらいいな。
節子:
そうだね!大掛かりな工事をしなくても、ちょっとした工夫でバリアを超えられたりするんだよね。良いアイデアだね。
地下鉄に乗る際のエレベーターの問題は、子供が生まれて初めて気づかされたよ。赤ちゃんがベビーカーを使うのは数年、それでも不便を感じるんだから、車いすユーザーの方々にとっては本当に深刻な問題だよね。私はエレベーターが無い駅で階段でベビーカーを運んだりという経験はあるけど、バルセロナではベビーカーでエレベーターに乗ろうとしたら必ず譲ってもらっていたのでエレベーターに乗れないという経験はしたことないな。
友理子:
本当にすごいね。日本で車いすの人が「エレベーターに乗れません」という問題は深刻だよ。
節子:
そんなに驚かれると思わなかった。エレベーターを本当に必要としている人が乗れないというのは悲しい現実だね。こっちでは、優先席やエレベーターで正義感の強い人が、注意している場面を見たことは何度もあるよ。日本では難しいのかな。
友理子:
やはり「心のバリアフリー」は海外の方が進んでいると感じてしまうよね。 みんなにこやかだし、かと言って過度に干渉するわけでもなく一定の距離感があって、すごく心地よいし安心だなと思った。 日本もエレベーターを譲ってくれたり、だんだん手を貸してくださる方が少しずつ増えたかなー?とは思うけれど。
節子:
そうだね。心地いいってすごく分かる。だからバルセロナでの子育てもしやすいと感じるよ。みんな子供が好きで、見守ってるという印象を受けるかな。赤ちゃんを連れて公共交通に乗ったら迷惑をかけてしまうとか、そんなに心配しなくて良かったのが出かけるときには助かったよ。
友理子:
日本の国土交通省とか東京都とかと仕事で関わりがあるけれど、 行政も心のバリアフリーを進めるために今、色々な対応を考えてくださっているから、きっと日本もいつか、願わくば近い将来、バルセロナのように心のバリアフリーが浸透する都市になっからいいな、と願っています。
節子:
そうだね!みんなでそんな世の中にしていけるといいね。
ユニバーサルデザイン2020行動計画
(2017年2月ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議決定)」より
参考
リンク
1980年千葉県生まれ。進行性の筋疾患による遠位型ミオパチーによる中途障害者。電動車いす利用者。一般社団法人WheeLog代表理事、NPO法人ウィーログ代表理事およびNPO法人PADM(遠位型ミオパチー患者会)代表。2014年にYouTubeチャンネル「車椅子ウォーカー」開設。2017年にバリアフリーマップ「WheeLog!」アプリをリリース。“車いすでもあきらめない世界をつくる”をミッションに活動を展開する。Googleインパクトチャレンジ グランプリ、STI for SDGs文部科学大臣賞、国土交通省バリアフリー化推進功労者大臣表彰、MIT Solve Solver Teams、ドバイ万博 Expo Live Global Innovator、国内外で多くのアワードを受賞している。一児の母。
1983年千葉県生まれ。2004年にイギリス・グラスゴー大学に留学。2007年、創価大学卒業。2010年、第36回日墨交流計画研修生としてメキシコ国立自治大学に留学。学生時代にヨーロッパ各国を旅行をした他、フィリピン、アメリカの短期留学、デンマークと中国でのインターンシップも経験する。2012年、結婚を機に渡西。2014年、日本建築家協会(JIA)の推薦を受け欧州大学マドリッド校(European University of Madrid)大学院を修了し、建築修士号を取得。2016年より5年間、日建設計バルセロナ支店でカンプ・ノウ スタジアムの改築の建築計画・設計に携わる。2023年からWheeLog事務局に加わる。二児の母。