FCバルセロナとモンジュイックの丘観光

 1957年の開場以来、修繕や一部改修があったとはいえ2022-23シーズン終了まで66年に渡り使用されてきたFCバルセロナのホームスタジアム「カンプ・ノウ」が2023年6月から全面改装に入った。10万人規模の屋根付き最新スタジアムの完成予定は2026年。ただし、2024年11月には50%の収容人数でカンプ・ノウが使用されることになる。

 

2023-24シーズンから1年半、FCバルセロナがホームゲームで使用するのがモンジュイックの丘の上にあるエスタディ・オリンピック・リュイス・コンパニスだ。1928 年の万博開催準備の一環として1927 年に建設された多目的スタジアムは、1992年にはバルセロナ五輪のメイン競技場にもなり、1997年から2009 年にかけてエスパニョールがホームスタジアムとして使用していた。元々のスタジアム名は、「エスタディ・オリンピック・デ・モンジュイック」であったが、2001 年に1940 年にフランコ政権によって会場近くで処刑されたカタルーニャ州大統領リュイス・コンパニスを記念し改名された。

@Oriol Llauradó

 55,926人の収容人数があるものの10万人弱のカンプ・ノウと比較すると席数は半減。1年半の使用とはいえ、クラブにとってマッチデー収入減となることは必至だったがより不安を増大させたのが今季開幕前の年間シート発売後の売れ行きの悪さだった。クラブは2万7,000席を年間シートとして発売するもわずか7,000席の申込みしか入らず、急遽価格を下げて再販売したほど。

 

実際にシーズン開幕後も空席が目立つスタジアムとなっているが最大の要因はアクセスにある。エスタディ・オリンピック・リュイス・コンパニスは市内南西に位置するモンジュイックの丘(標高173メートル)にあるため、例えば地下鉄の最寄り駅「ESPANYA」駅からバスかエスカレーターを利用しての徒歩でさらなる時間と労力をかけなければいけない。クラブは無料のシャトルバスを用意しているものの、市内中心にあるアクセス良好のカンプ・ノウと比較すると「一山登る」感覚が地元クレ(バルサファン)の足を遠ざけているのは確か。

 ただし、これによって我々日本人を含めた観光客にとってバルサのホームゲームの観戦チャンスが広がっているのも事実である。2023年12月に行われたアトレティコ・デ・マドリー戦は他の試合と比べてチケットが高額だったこと、試合キックオフ時間が21時だったこともあり、前半戦で最低の観客動員数(34,568人)に終わったが、カンプ・ノウであればラ・リーガ三強の一つであるアトレティコ戦は間違いなく入手困難なチケットとなっていたはず。

 

また、スタジアムのあるモンジュイックは観光スポットの多い場所であるためバルサのホームゲームと合わせて1 日かけた観光プランを用意することも可能で、今回はそれを強くおすすめしたい。

 

古代からバルセロナの街を守る要塞の役割を持っていたモンジュイックには丘の頂上に18 世紀後半に築かれたモンジュイック城がある。街を一望できるこの城のアクセスにはフニクラ(登山鉄道)とロープウェイもあるため、アクセス自体を楽しむことも可能だ。

 

地下鉄「ESPANYA」駅で降りてスペイン広場からアクセスするならカタルーニャ美術館が正面にあり、駅から徒歩10 分ほど。1929 年万博のために造られた建物を利用したこの美術館には、中世から近代までの作品が集められており、カタルーニャの芸術を理解する上では欠かせない美術館の一つである。さらに丘の上に行くとミロ美術館がある。バルセロナ生まれの芸術家ジョアン・ミロ自身が寄贈した彫刻や油絵などの作品約1 万点が展示されており、ミロの友人ジョゼップ・ルイス・セルト設計の美術館のデザイン、ゆったりとした空間も素晴らしい。

また、1929 年万博の際に造られたテーマパークのスペイン村もコンパクトではあるが、スペイン各地を旅した気分に浸れるため訪れたい場所だ。スタジアムにあるオリンピック・スポーツ博物館やスタジアム隣にあるサン・ジョルディ・スポーツ館(日本人建築家・磯崎新の設計)などスポーツ好きにはたまらない観光スポットもある。

写真2@Nano Cañas

@Nano Cañas

写真3@Arthur Friedrerich Selbach

@Arthur Friedrerich Selbach

もしバルサの試合が14 時、16 時15 分のランチタイムキックオフだった場合、モンジュイック観光を堪能するための時間が試合前だけでは足りないかもしれないし、もしかすると試合があることを忘れてキックオフに間に合わなかった、なんてこともあるかもしれない。バルサの試合をメインディッシュとしたモンジュイック・ツアーはホームスタジアムがカンプ・ノウに戻る2024 年11 月までの期間限定で特におすすめだ。

小澤一郎(おざわ・いちろう)

小澤一郎(おざわ・いちろう)

1977年、京都府生まれ。Periodista(サッカージャーナリスト)。早稲田大学卒業後、社会人経験を経て渡西。スペインで5年間活動し、2010年 に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在はU-NEXTでLALIGAの解説を担当。新刊(24年1月)に『サッカー戦術の教科書 プレーモデルが試合を決める』(マイナビ出版)。株式会社アレナトーレ所属。

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