バロンドールに輝いた女子サッカー選手アイタナ・ボンマティ

2024年1月1日、大手スポーツ紙『ムンド・デポルティーボ』の一面を飾ったのは今や名実ともにカタルーニャ最高のアスリートの一人、アイタナ・ボンマティだった。2023年はまさに彼女の一年、シーズンだった。所属クラブのFCバルセロナでは国内リーグを圧倒的強さ(28勝1分1敗、2位レアル・マドリードに勝ち点10差)で制し、UEFA女子チャンピオンズリーグでも2度目の優勝。そして、スペイン代表でも23年7〜8月にオーストラリアで開催された女子W杯を制し、文句なしでサッカー界最高の個人賞である2023年のバロンドールを受賞した。

男子のバロンドールは彼女の憧れの選手の一人であり、男子のカタールW杯でアルゼンチン代表を優勝に導いたリオネル・メッシ(インテル・マイアミ)が受賞。メッシと並び「世界最高の選手」のステージに上がったアイタナは「バロンドールを受賞できたことを誇りに思います」と喜びながらも「これは個人賞ではありますが、サッカーはチームスポーツでありバルサとスペイン代表のチームメイトやスタッフがいなければ受賞できませんでした。この場から私を支えてくれた人たちにこの賞を贈ります」と謙虚さと彼女らしさを忘れなかった。

アイタナの前には2021年、2022年のバロンドールを同じバルサ所属のカタルーニャ出身、アレクシア・プテジャスが受賞しており、これで3年連続「フガドーラ・カタラナ(カタルーニャ人女子選手)」が世界最高選手の称号を得ることとなった。二人ともにポジションはミッドフィールダー。アイタナは身長161センチと小柄ながら、その卓越した技術と観客を魅了するイマジネーションからペップ・グアルディオラ監督(マンチェスター・シティ)は彼女のことを「女子版イニエスタ」と表現した。アイタナは世界最高監督からの最高の褒め言葉に「驚きましたがとても嬉しいです」と答えている。

 

女子サッカーにおいてカタルーニャの地は今や世界最高峰であり最先端。その理由はやはりカタルーニャが長年FCバルセロナを中心にフットボールに対する美意識を育んできたからに他ならない。バルサのDNAであるヨハン・クライフの「1-0で勝つよりも5-4で勝つ方を好む。サッカーとは攻撃的にプレーすべきである。スペクタクルであるべきである」という格言はカタルーニャ人のサッカー観の根底に組み込まれている。

 

勝利のみならずフットボールに美しさを求める以上、それを表現する選手には技術と創造性が何より必要。バルサの下部組織「ラ・マシア」では何十年と芸術としてのフットボールを体現できる選手育成が行われきた。メッシ、イニエスタ、チャビといった男子サッカーの歴史に名を刻む名士たちを生み出したラ・マシアの育成メソッドは今や女子選手の育成にも転用され、プテジャス、アイタナを筆頭に状況判断と創造性に優れた芸術家たるフガドーラを次々に輩出している。

更に踏み込んだ話をすると男子サッカーがこれだけ巨大産業、グローバルビジネス化してしまうとバルサのようなグローバルクラブは地元カタルーニャ出身の選手を地道に育成してチーム強化する手法を取りづらくなっている。世界でブランドやユニフォームを売るためにも世界的ビッグネームを毎年補強する必要性に迫られている。対する女子サッカーはまだグローバルよりもローカルの比重が高く、特に育成と競技レベルの高いカタルーニャの選手を中心にチーム構成しても十分に国内外のタイトルを狙えるチームを作ることができる。

 

近年、バルセロナ市内、カタルーニャ全土に広告塔としてのアイタナやプテジャスの顔が並ぶのもそうした女子サッカー特有のローカル性があるからこそ。育成と強化、内容と結果の両立を実現できている点でも女子チーム、女子部門の方が地元クレ(バルサファン)に古き良きクライフイズム、バルサのDNAを訴求できている。

 

バルサ、そしてカタルーニャのアイコンにもなりつつある、アイタナ・ボンマティの登場によって最近のバルサ女子は男子を上回る勢いで新規ファンを獲得しつつある。今や「男子チームの観戦には行ったことがないけれど、バルサ女子の試合は観戦に行ったことがある」というファンがいるほどだ。

 

地元から育ち、地元の人たちに愛される、バロンドーラー。

カタルーニャの女子サッカーには男子サッカーが失いつつあるフットボールの原点と普遍的美学がいまだ息づいている。サッカーを単なるスポーツではなく哲学と美意識を持って芸術に昇華させたカタルーニャには他の世界にはないフットボールが脈々と受け継がれている。

小澤一郎(おざわ・いちろう)

小澤一郎(おざわ・いちろう)

1977年、京都府生まれ。Periodista(サッカージャーナリスト)。早稲田大学卒業後、社会人経験を経て渡西。スペインで5年間活動し、2010年 に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在はU-NEXTでLALIGAの解説を担当。新刊(24年1月)に『サッカー戦術の教科書 プレーモデルが試合を決める』(マイナビ出版)。株式会社アレナトーレ所属。

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