金井 節子(以下、節子):
バルセロナといえば「ガウディ建築」が有名だよね。19世紀末から20世紀初頭にかけて、バルセロナなどのカタルーニャ地方を舞台に、自然の曲線や豊かな装飾を取り入れた「モデルニスモ(モダニズム)」建築」という独自の建築様式が、世界中の人を魅了しているよ。
織田 友理子(以下、友理子):
日本でもガウディの建築は人気だよね。ガウディといえば「サグラダ・ファミリア」。あとは「カサ・ミラ」と「カサ・バトリョ」が有名。私もガウディの作品をぜひ見たいと思って、これまで何回か車いすで実際に訪れてきたから、読者の皆さんにも、車いすでも行けるんだ、行ってみたいなと思っていただけると嬉しいな。
節子:
サグラダ・ファミリアとカサ・ミラは、最寄に地下鉄の駅があるから、 コツを掴んでしまえばアクセスはとても簡単だよね。駅にエレベーターもあるし。でも、エレベーターは故障してしまっているトラブルに遭遇することも多いから、注意が必要なんだよね。
友理子:
そう。私も一度、降りた駅のエレベーターが故障してて、隣の駅で降りたこともあったよ。バルセロナの地下鉄は、駅と駅の間が歩ける距離だったりするから、あの時はなんとかなったんだよね。
友理子:
サグラダ・ファミリアでとても驚いたのは「入場料」。なんと障害者割引で、車いすユーザーは入場料無料、それだけでなく、介助者も無料なんだよね。 今までいろいろな国に行ったけど、障害者割引はあっても障害者と介助者が完全に無料という場所はなかなかないと思う。
節子:
そうだよね。無料だから何度も行きたい!って言ってたね(笑)ただ、無料でもオンラインで事前にチケットの購入が必須で、とても人気なスポットだから枠が埋まる前に余裕をもって購入した方がいいんだよね。
友理子:
あと今回、車いすユーザーとして嬉しかったのが、ミュージアムの展示スペース。車いすユーザーでも見やすいように「足のスペースが空いた展示台」があって、視覚障害者もガウディの作品を触って体験できる「触れる模型」が展示されていたね。
節子:
五感で感じることができる展示は、障害者だけでなく、子供にとっても良い体験だよね。
友理子:
車いすの目線ってちょうど子供の高さと同じぐらいだからね。 車いすに対応したらベビーカー対応にもなる。すごく細かいことだけど、車いすユーザーの動きを理解すれば、ちょっとした仕掛けや工夫で、車いすユーザーなどの障害のある方でも見やすい展示空間にできたりするよね。でも、そんな対応をしてもらえるところは、まだなかなかない印象なんだよね。きっとこれからは、もっとたくさんの美術館や博物館で、こんな対応が増えてくるんだろうなって未来を想像していたよ。
節子:
誰も取り残さない、全ての人が同じように楽しめて、体験できるような展示空間を目指しているのがわかる取り組みだったね。
友理子:
サグラダ・ファミリアは着工から140年以上経っていて、世界中から観光客が来ているけど、やっぱり行く前は心配だったよ。今回は、前回行った時よりもさらに見やすさ、動きやすさがアップデートされているのが印象的だった。YouTubeの動画を見てもらったらわかるけど、前回行った時は入口が大きなスロープで傾斜がきつくて、車いすは押してもらわないと大変だなあっていうのが実感だったけど、今回はエレベーターが設置されていたんだよね。そんな変化を感じることができて、入口に入った瞬間からすごく嬉しかった。
節子:
そうなの。サグラダ・ファミリアのバリアフリーは当事者の声を常に反映して、対応をアップデートしていているんだよね。
節子:
今回、カサ・ミラのバリアフリー対応を長年進めてきた方のお話を聞く機会があったんだよね。その話も踏まえて、読者の皆さんに紹介するね。
友理子:
まず車いすユーザーは、入口が違うんだよね。歩ける人は大きな門の脇の歩道を通って中に入るんだけど、車いすの人は大きな門から入る対応になっている。入口から中庭に入って、空を見上げる体験は、ガウディの世界に吸い込まれるようでワクワク感があったよ。
節子:
館内のルートもちょっと特別だよね。特筆すべきはエレベーター。なんとカサミラには100年以上前にガウディが設計した住民用のエレベーターがあって、しかも椅子まである!
友理子:
歩ける人は利用できないけど、車いすユーザーはこのエレベーターを使って上の階に行けるんだよね。
節子:
実はガウディは、身体が不自由で、足が悪かったそう。この時代にエレベーターを設置することも最先端、ましてや中に椅子まで設置されていて、その当時、普通に歩ける人には思いつかないことだろうね。
友理子:
そうだったんだね!やっぱり、ガウディさん、目の付け所が違う!エレベーターでも最先端なのに、椅子まで設置するなんて、本当に先見の明があるね。足が悪いからこそ、そういう発想になったんだろうね。障害がある「リードユーザー」の視点だからこそ、最先端の技術を取り入れるという好事例だね。
節子:
他にも、1階にバリアフリートイレが設置されていて、車いすでも安心して見学できるようになっているのもポイントだね。
節子:
カサ・ミラでは、車いすだけじゃなく、視覚障害者向けの対応も充実していたよ。点字のガイドブックが用意されていたのが印象的だった。あと、触れる模型や館内の触知図もあったし。数年前、初めて視覚障害の友人とバルセロナを観光したんだけど、触って物を感じ、認識している姿を見て、衝撃を受けたんだよね。
友理子:
この触れる模型って本当に画期的だよね!サグラダ・ファミリアでも感じたけど、スペイン・カタルーニャは視覚障害者向けの対応も進んでいるよね。
節子:
世界遺産のバリアフリーでは、文化財保護とバリアフリーの両立という難しい課題があるんだよね。その中でカサ・ミラは車いすユーザーでも屋上に行けるようにするために、既存の床を壊して新しいエレベーターを設置するという決断をしたんだって。
友理子:
文化財の保護については、様々な状況があって、一概には言えないけど、障害のある人にも対応していこうという姿勢は当事者としてほんとに嬉しいな。
友理子:
私が前回行った時は簡易電動車いすだったから、住民用のエレベーターを使えたけど、今回は病気の進行で大型の車いすに乗り換えてしまったから、中に入るのは泣く泣く断念したんだよね。
節子:
でも、今回一緒に回った車いすユーザーの友人が、屋上まで行って素晴らしい眺めを楽しんでいたよ。
友理子:
私もその話を聞いてすごく嬉しかった。話してくれた彼は最高の笑顔だったな。きっとかけがえのない良い思い出が作れたんだろうね。私のように人によっては利用できないかもしれないけど、障害があってもない人と同じように体験が重ねられるというのは何にも代えがたい財産だね。それを可能にするような取り組みをしてくれていることがすごくわかって、勇気づけられたよ。これからも、さらにアップデートし続けていただけることを願っています。
読者の皆さんにも、機会があったらぜひ訪れてほしいな!
▶カサ・ミラのバリアフリー情報はこちら
▼アクセス
ディアゴナル駅から出発してグラシア大通りを降りていくと、ガウディの作品カサ・ミラとカサ・バトリョに行くことができます。以前、おススメの観光ルートについては、前回のブログを参考にしてもらえると嬉しいです。
今回紹介した「サグラダ・ファミリア」、「カサ・ミラ」、そして「カサ・バトリョ」は、2015年冬に訪問した時の「車椅子ウォーカー」の動画で紹介しているので、ぜひ参考にどうぞ。
1980年千葉県生まれ。進行性の筋疾患による遠位型ミオパチーによる中途障害者。電動車いす利用者。一般社団法人WheeLog代表理事、NPO法人ウィーログ代表理事およびNPO法人PADM(遠位型ミオパチー患者会)代表。2014年にYouTubeチャンネル「車椅子ウォーカー」開設。2017年にバリアフリーマップ「WheeLog!」アプリをリリース。“車いすでもあきらめない世界をつくる”をミッションに活動を展開する。Googleインパクトチャレンジ グランプリ、STI for SDGs文部科学大臣賞、国土交通省バリアフリー化推進功労者大臣表彰、MIT Solve Solver Teams、ドバイ万博 Expo Live Global Innovator、国内外で多くのアワードを受賞している。一児の母。
1983年千葉県生まれ。2004年にイギリス・グラスゴー大学に留学。2007年、創価大学卒業。2010年、第36回日墨交流計画研修生としてメキシコ国立自治大学に留学。学生時代にヨーロッパ各国を旅行をした他、フィリピン、アメリカの短期留学、デンマークと中国でのインターンシップも経験する。2012年、結婚を機に渡西。2014年、日本建築家協会(JIA)の推薦を受け欧州大学マドリッド校(European University of Madrid)大学院を修了し、建築修士号を取得。2016年より5年間、日建設計バルセロナ支店でカンプ・ノウ スタジアムの改築の建築計画・設計に携わる。2023年からWheeLog事務局に加わる。二児の母。