「テラスにしますか?」もちろん、テラスでしょ!

「もちろん、テラスでしょ!」

 

カタルーニャ人の友人たちとバルへ一杯飲みに行くと必ず店の前で店員に聞かれる。「テラスにしますか?それとも室内?」快晴で天気がいい日は、きまってテラスを選択する人々が多く、夜もテラスが一杯で入れない、なんてことも多々ある。

 

快適な夏はもちろんのこと、強い太陽が照らす冬日和もテラス席で飲み喰いする文化がカタルーニャにはある。慣れてくると室内で食べることのほうに抵抗すら感じるくらいだ。

それは都市部だけではなく、どの街や集落にもある風景だ。街の中心には教会があり、その前には市民が集う広場(Plaça)がある。建築的には、教会に広場を設ける理由がいくつかある。一つには、教会の正面を一望できるように離隔距離を得るために設けられている。

伝統的に教会の祭壇は東側に設けられるため、その反対となる西側が教会の入り口となる。

その入り口の上に、街全体に響き渡る鐘を備えた鐘楼が聳え立ち、その高さを基準として、広場の奥行きが決められることが多かった。二つ目には、教会と関連して催される様々な行事のために、多目的な空間としての広場が設けられたことが理由としてある。

 

クリスマスには、ベレン(イエス・キリストが生まれたシーンを再現した人形)やツリーが飾られる華やかな舞台ともなる。そのため、周辺にはカフェやバル、レストランからテラス席(Terrasa)が出されて、いたるところでビールやワインを片手にタパスを摘まむ風景がくり広げられるのだ。

この名前が興味深いのは、テラスとは、元々はフランス語で盛り土を意味していたが、それが屋内の延長としての外部空間としての意味を持つようになった。つまり、屋外でありながら、内部の延長としての位置づけがこの言葉にはあるのであり、テラス席とはまさに外にいながらも、内部にいるかのような場所として楽しむことが意図されているのである。

 

このテラスは広場だけではなく大通りにもあり、それらは多くの場合パラソルを出している。つまり、街路を室内化して使用している証左であり、都市の多彩な使い方を表しているといえる。その最も有名な風景は、バルセロナにあるパッセージ・ダ・グラシア(Passeig de gracia)やランブラス通り(La Rambla)だろう。パッセージ・ダ・グラシアはパリのシャンゼリゼ通りを参考にして造ったとされており、テラスのカフェ文化はパリから伝播されてきたものだ。この他にも海沿いのバルは、海が見える風を楽しむために、テラス席が海岸沿いにずらーと並んでいる。

 

筆者はテラス席の極地は、チリンギート(xiringuito)にあると考えている。日本語に訳すと海の家だが、日本の海の家はゴザや畳敷きの場で、料理が主眼というよりも、休憩が主だが、カタルーニャそれは食が主である。

本格的な厨房が設置されており、そこで作り出されるパエリヤやカクテルは格別であり、ビーチのテラス席は夕方から人々で一杯になる。バルセロナより北は南仏まで続くコスタ・ブラーバが、南はバレンシアまで続くコスタ・ドラーダ呼ばれる海岸が続くから、時間に余裕がある場合は、ぜひ、このコスタでのテラス席を満喫してもらいたい。そして、チリンギートは夏限定で開店していることが多く、夏の風物詩である。

最後に、テラスに関連した近年の動向を少しだけ紹介しよう。近年はその屋外空間の活用が一層活発化してきている。バルセロナでは「スーパーブロック」とよばれる21世紀の都市再開発が始まっている。バルセロナの新市街は碁盤の目の都市構造をしており、基本的には一方通行で規定された車道が縦横無尽に交差しているが、それらのいくつかを歩道専用として、人々に開放される計画なのである。是非、サン・アントニ市場の近くを訪れてほしい。

そこには、スーパーブロックにより公園化されたテラス席を楽しむことができる。日本では残念ながら、そのような風景は一般的ではない。消防法や保健所などの制約がそれを難しくしていると聞いたことがあるが、近年は丸の内仲通りが積極的に、テラス化をしているので、是非東京を訪れた際には、日本のテラスを満喫してみてほしい。

山村 健(やまむら たけし)

山村 健(やまむら たけし)

1984年山形県生まれ。2006年早稲田大学理工学部建築学科卒業。06年バルセロナ建築大学留学。09年早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。12年同大学院博士後期課程修了。12~15年ドミニク・ペロー・アルシテクチュール勤務。16年YSLA ArchitectsをNatalia Sanz Lavinaと共同主宰。早稲田大学専任講師などを経て、20年東京工芸大学准教授。博士(建築学)、一級建築士。

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